日々、オイカワ

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あの頃と今 



あたりの色彩が沈みはじめた夕刻どき。宵がせまってきた。

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7月17日

流れゆく川に立ちこんで街の埃りっぽさと違い澄んだ空気を背中に受けていた。
そして風の音と水の匂いを感じながらその心地良さを感じていた。

今季のボクはあまり釣れていない。輝く夏色に染まったオイカワに出逢えてないのだ。
案の定、今日もオイカワで竿を撓らすことをしていなかった。
そこにコンスタントに釣っていたmatt さんが見かねて自分の場所を代わってくれた。

ハスも狙えるようフックサイズ14番のウェットで挑んでいたのだが、
「終わったな。秋のような終盤の川になってる」と川に入るなり
明らかに魚が少なくなった状態を嘆いたmatt さんが
「ウエット小さいのある?」と訊いてきた。

「あるよ...去年巻いたのだけど」

「だめだよ。これあげるよ」

と、光沢のある赤いボディに斑模様の数本のウイングを茶色のスレッドで
しっかりと留めた18番のウエットを差し出した。

「ありがとう」

数日前の豪雨で本流に広い中州ができていつもの流れと違っていた。
「流れの中央にサンドバーがあるから、そこからのかけあがりについているよ」と、
教えられた通りに流すと可愛らしいオイカワが釣れてきた。

しかし釣れたところでピタッと釣れなくなってしまった。
「地合いなのか?」と言いながら等間隔で入っていたみんなは
その場を離れそれぞれ場所を替えて散っていった。


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どうしようか。あまり時間もない。

相変わらず清々しい空間に身を置いているにも関わらず、
今季はどうしてあまり釣れないんだろうと心のなかが欠け始めていたボクは
中州の反対側の本流で立ちこんでやってみることにした。

そして思い出した。ウエットを初めてやったときに
一緒にいたGreen Cherokee さんに教えてもらった言葉を。
「川に垂直にキャストしてラインがターンして伸びきって釣れなかったら数歩進む」と。
そのセオリーどおりに岸に向かってキャストした。

うおさんに「ラインのテンションを張っておくんだよ」と以前指摘されたのを思い出し、
余分な弛みを注意しながら調整して流していった。

そして数歩進む。

流れゆくラインを見つめ
また進んだ。

さらに進む。

ラインがターンし終わるくらいのとき、コツッと手元に伝わるものを感じた。
大きくはないが14cmくらいのオイカワが挨拶にきてくれた。
ようやく自分でオイカワの付いている場所を見つけられ、
それから続けざまに釣れるようになっていった。
釣れる度にあまり人には見せたくないが一気に顔が綻んだ。

夕暮れの静かに流れる時間とともに日中から遊んで日焼けした腕を
惜しまず振り続けキャスティングを繰り返す。
そして流れゆくラインを見つめる──



  どうしてこんなにオイカワが好きなんだろうか。

  数十年前の子どもの頃、今は亡き父に初夏の日差しのなか、
  どこにでもありそうな国産のセダンに幼きボクは期待と楽しみに胸膨らませ乗り込み、
  川釣りに連れて行ってもらった。休日にも忙しくて会えない父と出かけることは楽しかった。

  緑恵まれた郊外のとある可愛らしい名前のついた小学校に着きクルマを停めると、
  校庭を横切りその先にある草むらを抜けると鄙びた感じの小川が佇んでいた。
  まるで宝箱を開けたように子どもの頃のボクの瞳の中へと映り込んだ。

  河原に降り立ったそのときだった。
  目の前の浅瀬に悠然と泳ぐ翡翠のような輝く緑色の一尾のサカナを目にした。
  ハッとして息を飲んだことも覚えている。なぜだかすごく心が揺さぶられた。
  そのときは名前も知らなかったが子ども心に初めて夏色のオイカワに魅入られた瞬間であった。
 
  ああ、いまでもそんな透明な気持ちでいられているのかなぁ。



──そんな憶いに耽っているとやはりラインがターンし終わるくらいで、力強いアタリが伝わった。
竿を立てるとグンと引き込まれる力。一瞬、ハスかと思った。しかしその瞬間に勢いよく横に走り始めた。


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(photo: mihiro


本流の強い流れに乗って魚の引きが、先日Blueheron さんに作ってもらった愛竿に
大きくさらにきれいな弧を描いていく。寄せても寄せても姿を見せないがあきらかにハスの引きではない。
さきほどまで手にしたオイカワとも違う。

ようやく竿を立てきったところに揺らいだ水面から滲むようにあの翡翠色の緑が輝いた。

「夏色だ!」

幼少の頃の夏色オイカワに対する想いを馳せ、
いま手に伝わる力強い夏色オイカワの引きがボクの気持ちを引き締めた。
竿を弧に撓らせ川に浸かっているこの時間は誰にも侵されない自分だけの貴重な時間だった。


IMG_3532.jpg


このオイカワとのやり取りを存分に味わい、ネットに収まった瑞々しい魚姿を見た瞬間、
その色彩に富んだ婚姻色の色合いに体軀の隅々にいたるまで爽快な風が走り抜けていった。
さらに擦りへった心を癒される気持ちが溢れていった。

「まだ子どもの頃の透明な気持ちを持ち合わせているんだな」と少し自嘲しつつも
いまだに変わらずオイカワの奥深き魅力に心奪われていることを再認識した瞬間でもあった。

オスオイカワとしては17cmとそう大きくはなかったが今のボクには充分であった。
なぜなら子どもの時のあの時間に戻れたのだから。


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コメント

夏色 = 翡翠色

GLさん

相変わらず見事な文章力ですね。
翡翠色.... いい表現だと思います。
確かに、一度見たら忘れられない色味ですよね。

そして、その翡翠色が幼い頃の記憶とリンクしてくるあたり
さすがだなぁ と感じました。
やっぱり、日々オイ、まだまだ読みたいブログです。
不定期で良いので更新していただけるとファンとしては嬉しいです。

tokko #- | URL | 2016/07/19 12:43 * edit *

Gran Lussoさん、こんばんは。
相変わらず素敵な文章を心より堪能させて頂きました!!

GLさんが本流で連発されている時、遠くから、”おぉ~、凄~いっ!!”、ってお声掛けしたのですが、心地良いせせらぎの音に吸収されてしまったようでした・・・ (^^ゞ けどさすがに、そこまで幼少の頃の思い出に浸っていらっしゃったとは思ってもいませんでした。

僕にとって最初のオイカワは兵庫県のとある川でした。それは毎日通っていた徒歩数分の夙川ではなく、阪神電車で少し西に行ったところにある水深が浅く底石が煌く川でした。

車窓から見えたこの川の印象が強く、小学校1年生だった私は父親にあの川に行きたいとせがみました。そして、網を持参で電車で川を訪れ、結局、網を使わず”かいぼり”の原理で石を積み上げてプールを作り、その中で小さな手で夏色のオイカワを追い込んで捕まえたのでした。思い返せば、人生初イワナも長野県の雑魚川で手づかみでした・・・ (^^ゞ

幼心の時に、あの夏色に、”ハッと息を飲んだ”、のは幼き頃のGLさんと全く同じです。そんな夏色のオイカワには、その後、小学校高学年になってから埼玉県越谷市の古利根川で再会することができました。

そして、それから何十年も経過して、子供の頃のようにオイカワを親しむ自分が今ここに居ます。GLさん程、透明な心を持ち合わせていないかもしれませんが・・・ (^^ゞ、僕もGLさんに負けないくらいオイカワが好きです。

もう5年くらいZacco FFを続けていますが、なぜか一向に飽きません。飽きるどころか益々のめり込んでいる自分が居ます。きっと今後も体力が続く限りはずっと愉しんでいるのではないか・・・と思っています。

ですので、今後もお互いに極夏のオイカワを愛でながら幼少の頃を思い出せるような釣行をたくさん繰り返したいものですね。

という訳で、今後もたくさんご同行よろしくお願いします!!

Green Cherokee #- | URL | 2016/07/19 22:36 * edit *

バランスのいい韋駄天で惚れ惚れしますね!
ブームなので数が少なくなっているのでしょうか。
こちら東北はまた別の理由で少ないです。実際、たくさんいるかも知れませんが。やらないだけで。

マッキ #PR6.u/TU | URL | 2016/07/20 10:50 * edit *

 
 これだから止められない。
 この色愛の美しさ。
 鰭を空かしてみるグラデーションなどは自然の芸術。
 韋駄天さんと遊べる幸せ。
 しみじみ感じます。

jetpapa #- | URL | 2016/07/23 05:48 * edit *

Tokko さん、こんにちは

あの美しい夏色。一度見たら忘れられないですよね。
ボクは文章を書くのが大の苦手。書いているうちに回りくどくなってしまいます。
ただその瞬間を感じたことだけ綴って伝えればと思ってます。
だから釣りのブログではないですが次が書ければまたお立ち寄りください

GL #- | URL | 2016/08/01 15:58 * edit *

Green Cherokee さん、こんにちは

あのときお声をかけていただいてたのですね。気がつかずごめんなさい。
少年期の体験って大人になってからの経験よりも数倍、数十倍も色濃く染め上がるものなんですね。
どうしても夏色を見るとあの時の感動を思い出さずにはいられません。
また是非いっしょに夏色を探しましょう

GL #- | URL | 2016/08/01 16:02 * edit *

マッキさん、こんにちは

最近は渓流に勤しんでいるご様子ですよね。渓魚は渓魚なりの美しさがあります。
魅了されるのも分かります。こちらよりも北にある東北の夏色はこれからかもしれませんね。
〝夏〟時間作って遊んであげてください

GL #- | URL | 2016/08/01 16:06 * edit *

jetpapa さん、こんにちは

あの美しさは額に入れて飾っておきたいくらい。
でも清らかな流れなのかで自由に疾走する姿が
生命としての力強さ、逞しさも感じます。
限りある韋駄天と遊べる時間は大事に過ごしたいですね

GL #- | URL | 2016/08/01 16:12 * edit *

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